Moto2 category

富沢選手の死、疑惑、そして論争

9月5日、イタリアで開催されていたオートバイレース世界選手権モト2クラスのレース中に亡くなった富沢祥也選手の続報です。
私は毎回レースの度にツィッターでイタリアTV解説実況中継をしていまして、富沢選手の事故発生の際も行っていたのですが、その際、ホルヘ・ロレンソ選手が2度ほど奇妙な発言をし、周囲の反応もあまりにも曖昧すぎたため、お伝えできなかった瞬間がありました。
それは、「(富沢選手の死は)モトGPのスタート前から知っていた。」と言うもの…。
実はこの発言を引き金に、今回の事故について疑惑、論争が生じてきております。

ミザノ 『レース前から知っていた、恐怖に挑まねばならないライダー達』

これほどまでに悲しい表彰式は見たことがない。
1位ダニ・ぺドローザ(写真中央)、2位ホルヘ・ロレンソ(写真左側)、3位ヴァレンティーノ・ロッシ(写真右側)。
笑顔を浮かべる者は皆無だ。
1週間前、インディアナポリスの表彰台では、シャンパンシャワーは禁じられなかった。13歳の少年ライダーの死は、それを禁じるほどではなかったのだと。
しかし今回はレース後に、ロードレース世界選手権を運営するドルナ・スポーツ社のエスペラータ社長から、全員に向けて富沢選手の訃報が通達された。
「信じられないようなショックだ。」と、ぺドローザ選手は言う。

実を言うならば、全員が知っていたのだ。
「あれは死んでいる。」
ガレージにいたロレンソ選手が事故の様子をスローモーション映像で見ながら、すぐにこう言った。
富沢選手が即死であろうと確信してレースに挑んだのだ。午後1時15分、ロレンソ選手は自身の広報担当者に携帯メッセージを送り、富沢選手の訃報を確認しようとしている。
モバイルクリニックを運営しているクラウディオ・コスタ医師は、「死亡時刻は14時19分だった。」と明言しているのだが。
(しかしながら公表では14時20分となっている)
疑惑が多すぎる。
ロッシ選手のコメントも似たようなものだった。
「後続車が(富沢選手の身体を)避けてくれていればと思ったけれど、リプレイを見ると無惨なものだった。他のバイクに轢かれるのが一番最悪なんだ。レンツ選手もそうだったけど。モト2の出場台数が多いことは関係ない。40台を30台に減らすべきなのだろうけど、でも、今回のことは関係ない。サーキットや安全云々が関係ないのと同様にね。関係あるのは、これが僕らがやってるスポーツだってことだ。」

まともな人間のスポーツじゃない。選手の1人が死にかけても、他の選手達は事故が起きた同じコーナーを回り続けているのだ。
ヴァレンティーノ・ロッシ選手は、生き残ってゆくためには『別の世界』を創り上げねばならないようなクラスに属している。外の世界も、恐怖も、理性も常識も入ってこられない『別の世界』をだ。
「加藤大治郎選手の時は、僕たち全員、表彰式の後に知らされましたが、今回は違いました。勝利を祝う理由なんてありませんでしたよ。」(編集部注:モト2の表彰は通常通り行われていた)
ロレンソ選手も同じ言葉を繰り返している。ガレージの中で泣いていたロレンソ選手。
「祥也は良いライダーで、明るい奴だった。いつも、みんなを笑わせていたよ。祥也を嫌う奴なんていなかっただろう。」
おそらく事故後、レースは中断されるべきだったのだろう。多くの者が、そしてロッシ選手もが、そう言っている。
「モト2のレースを中断するのが正しい措置だったと思います。ただ、富沢選手にとっては何も変わらなかったでしょう。危篤状態でしたから。」
おそらく、モトGPもまた中止されても良かったのだろう。倫理的に正しい措置としてだ。そこで働く者達にとって、とんでもない事件だったのだ。
しかし、ジャコモ・アゴスティーニ元選手は、
「我々はライダーだ。薬屋なんかじゃない。」と厳しく言い放つ。
「それを自分達で選んだのだから。」と。

ここ17年間、オートバイ世界選手権で亡くなった選手は“わずか”3名に過ぎない。30年前には毎回レースの度に、誰かが亡くなっていたと言ってもいいほどだ。
富沢選手の事故は、二輪の世界の不安定さをパドックに呼び覚ます警報となるだろう。
かつて二輪選手であり、現在は安全管理責任者を務めるフランコ・ウンチーニ氏が、
「腹部用プロテクターの研究までが行われているんです。」と話している。
エアーバッグのような物なのだが、ライダー達には好まれないと言う。重量が増し、スピードが落ちるからだ。
ここでは全てが反対なのだ。安全性が増すほどに勝利への可能性は反比例してゆく。それ故に、亡くなってゆく選手のかたわらで、走り続けることが当たり前になってゆくのだ。まるで『Dead Man Running』だ。
「これは危険なスポーツだから。」の一言が全てを物語っている。
たとえレースを中断しても、富沢選手の蘇生には役立たなかっただろう。
「中断、中止は全く検討されませんでした。」とロッシ選手は言う。
その事実の中にあるものは、「富沢選手が亡くなったのは、専門的に言うならば本人のミスからです」と繰り返す者達同様の皮肉な現実主義だ。
ロッシ選手の心の砦の中へ、それが再び入りこんでゆく。
「スタート前、僕は頭の中を空っぽにしました。自分自身の中を空っぽにしたんです。」
思いを巡らすには、そして、激しい気持ちを抱くには、おそらく時間が必要だろう。
これからだ。

(日本語翻訳:La Chirico / 伊語記事:La Stampa 2010年9月6日

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POSTED COMMENT

  1. みかこ より:

    はじめまして、です。色々な情報有難う御座います。
    ホルヘファンの私なので彼のブログを読んでいるのですが、書いてありました。やっぱりそうだったんですね。
    スペイン語を英語に自動翻訳掛けて読んでいるので、きちんと意味が取れなかったんです。
    きっと、コース上でもサーキット内でも無く、病院で最後の最後まで処置をし、あるいは一番に知るべき人に知らせてからの公式発表となったんだろうと想像していました。
    即発表だけが良いとは思わないので、これに関しては何とも言えませんね。

    青山選手はレース後の日本メディア向けインタビューに気丈に答えてました。
    他の選手もきっとそうですが、ペドロサ選手が「彼はこの道を自ら選び、そして幸せだったと思う」と言っていた言葉、それは彼ら自信の気持ちでもあるんだろうと思います。
    綺麗事ですが、富澤選手を含めたライダー、そして多くの関係者が命を掛けて愛しているバイクレースを、これからも愛していこうと思います。

    長文雑文すみません。また、ここで個人的感情を吐き出したりしてすみません。

  2. みかこ より:

    はじめまして、です。色々な情報有難う御座います。
    ホルヘファンの私なので彼のブログを読んでいるのですが、書いてありました。やっぱりそうだったんですね。
    スペイン語を英語に自動翻訳掛けて読んでいるので、きちんと意味が取れなかったんです。
    きっと、コース上でもサーキット内でも無く、病院で最後の最後まで処置をし、あるいは一番に知るべき人に知らせてからの公式発表となったんだろうと想像していました。
    即発表だけが良いとは思わないので、これに関しては何とも言えませんね。

    青山選手はレース後の日本メディア向けインタビューに気丈に答えてました。
    他の選手もきっとそうですが、ペドロサ選手が「彼はこの道を自ら選び、そして幸せだったと思う」と言っていた言葉、それは彼ら自信の気持ちでもあるんだろうと思います。
    綺麗事ですが、富澤選手を含めたライダー、そして多くの関係者が命を掛けて愛しているバイクレースを、これからも愛していこうと思います。

    長文雑文すみません。また、ここで個人的感情を吐き出したりしてすみません。

  3. sabico より:

    イタリア在住です。
    わたしくしも、ロッシの富沢選手についてのインタビューをテレビでみました。「富沢がミスをした」ということばを聞いたとき、なんというスポーツなのかと思いました。
    翌日朝、あれはラジオRAI3だったか、ある若者が、富沢選手が死にいたった事故のあと、なぜレースを中断しなかったのか、恥ずべきことだ。と。
    ごもっとも。
    しかし、しかしなのですね。このスポーツは。
    なんとも。。

  4. sabico より:

    イタリア在住です。
    わたしくしも、ロッシの富沢選手についてのインタビューをテレビでみました。「富沢がミスをした」ということばを聞いたとき、なんというスポーツなのかと思いました。
    翌日朝、あれはラジオRAI3だったか、ある若者が、富沢選手が死にいたった事故のあと、なぜレースを中断しなかったのか、恥ずべきことだ。と。
    ごもっとも。
    しかし、しかしなのですね。このスポーツは。
    なんとも。。

  5. chirico より:

    みかこ様、初めまして。コメントをありがとうございます。

    ホルヘ選手が生放送中に「モトGPスタート前から知っていた」と爆弾発言をした際には、レポーター等から「公表よりも家族への連絡が優先された」と、慌てて補足されたんですよ。

    ただ、やはり商業的な理由も拭いきれないとして、主要紙の中ではすぐに、ものすごい勢いで倫理的に批判してきたものもありました。

    当ブログで紹介している記事は、かなり中立的に冷静に伝えているものを選んでいます。

  6. chirico より:

    みかこ様、初めまして。コメントをありがとうございます。

    ホルヘ選手が生放送中に「モトGPスタート前から知っていた」と爆弾発言をした際には、レポーター等から「公表よりも家族への連絡が優先された」と、慌てて補足されたんですよ。

    ただ、やはり商業的な理由も拭いきれないとして、主要紙の中ではすぐに、ものすごい勢いで倫理的に批判してきたものもありました。

    当ブログで紹介している記事は、かなり中立的に冷静に伝えているものを選んでいます。

  7. chirico より:

    sabico様、コメントを有難うございます。

    最近は人命に関わるような大事故がなかったせいか、私も毎回観戦しながらも『危険なスポーツ』と言う認識が薄れていて…
    今回の事故は心底驚きました。

    レースが中断されなかった点は、今後、かなり波紋を呼びそうですね。

  8. chirico より:

    sabico様、コメントを有難うございます。

    最近は人命に関わるような大事故がなかったせいか、私も毎回観戦しながらも『危険なスポーツ』と言う認識が薄れていて…
    今回の事故は心底驚きました。

    レースが中断されなかった点は、今後、かなり波紋を呼びそうですね。

  9. みかこ より:

    そんなやりとりもあったんですね。
    motoGPレース前に亡くなってたのが明らかで発表してなかったら、なんでだ?って事になるし、
    発表してたらレースの続行はどうするんだ?って事になるし、というわけですね。。

    他の記事も読ませて貰い、色々分かってきました。
    悲しい現実は変わらないですが、こうやって色々検証されることは重要な事だと思います。
    …2人のライダーに関してはちょっと心配ですが、刑事上は大きなことにはならないと信じてます。。

    多くの方と同じく赤旗は出すべきだったと思いますが、私には何が正解とか分からないし、考える気にもなれません。
    だけど、ドルナをはじめ関係者には今後のために色々検討して欲しいと思いました。
    情報ありがとうございました。

  10. みかこ より:

    そんなやりとりもあったんですね。
    motoGPレース前に亡くなってたのが明らかで発表してなかったら、なんでだ?って事になるし、
    発表してたらレースの続行はどうするんだ?って事になるし、というわけですね。。

    他の記事も読ませて貰い、色々分かってきました。
    悲しい現実は変わらないですが、こうやって色々検証されることは重要な事だと思います。
    …2人のライダーに関してはちょっと心配ですが、刑事上は大きなことにはならないと信じてます。。

    多くの方と同じく赤旗は出すべきだったと思いますが、私には何が正解とか分からないし、考える気にもなれません。
    だけど、ドルナをはじめ関係者には今後のために色々検討して欲しいと思いました。
    情報ありがとうございました。

  11. chirico より:

    みかこさん、私もデ・アンジェリスとレディング両選手の続報が気になっています。

    今後は通常ブログ形態に戻しながら、特報すべき記事が出てきたらご紹介していこうと思っています。

  12. chirico より:

    みかこさん、私もデ・アンジェリスとレディング両選手の続報が気になっています。

    今後は通常ブログ形態に戻しながら、特報すべき記事が出てきたらご紹介していこうと思っています。

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