モトGP『初公開、ケーシー・ストーナーの素顔』
ストーナー選手の両親は、息子を成功の道へと進ませるべく多大なる犠牲を払ってきたのだが、現在は、オーストラリアのグレンバーン湖の近くに2,400ヘクタールの土地を抱え、千頭もの家畜を育てている。そして、ここがストーナー選手が里帰りした際の憩いの場ともなっているのだ。
インターネットは接続不能、一番最寄りの店まで40km。近代的な生活を厭う者にとっては理想的な環境!
「ちょっと矛盾してるってことは分かってます。つまり、自分の持ち物には愛着を持っているけれど、他と交流するための物は何も持ちたくないんです。例えば、TVが必要だって思ったことがないんですよ。外で何かしたり、農場で働く方が好きですからね。」
将来は…つまり、ライダー人生に終止符を打った後、何をしたいかについてはもうはっきりしている。
「オーストラリアに完全帰国して、農場の仕事をやりたいです。それから、もしかしたら子供も作ってね。」
現在、ストーナー選手と妻のアドリアーナさんは、1年の大半をスイスで過ごしている。ジュネーヴ湖近くの一軒家、緑のど真ん中で生活しているのだ。
「緑がたっぷりあって、山から流れてくる小川のすぐ近くなんです。だから、家を出ると、すぐに鱒釣りができるんですよ。」
ストーナー夫妻はモンテカルロでしばらく過ごした後、スイスへと移って来た。丁度、ストーナー選手が精神的に危機状態にあった頃だ。当時、唯一まともにできることと言えば、マンションの部屋の壁に的をぶらさげ、空気銃の練習をすることだけだった…。
ストーナー選手はスポットライトを浴びて生きるような生活を嫌っている。俗っぽいものは受け入れられないのだ。それ故、ファンやマスコミとの関係がすっかり難しいものとなっているわけである。年と共に、だんだん上手くこなせるようにはなってきたものの、それでも人目の届かない場所の方が気持ちが落ち着くと言う。
「有名人だってことに慣れないし、そのことからパワーを得られないんです。多くの選手は…特にヨーロッパの選手達は、そう言う方が居心地が良いみたいですよね。ほとんど、そう言うのが普通みたいになっていて。でも僕は、できるだけそう言うことからは遠ざかっていたいんです。人に名前が知られるような環境で生きているわけだから、なんとか上手くやっていこうとはしてますよ。でも、オートバーレースが好きなんであって、その他のことは全て苦しいだけで。」
レースウィークエンドでは毎回、ヘルメットのバイザーを下げ、ピットレーンから飛び出してゆくことだけを心待ちにしている。その瞬間、世界の全てに対し、存在しているのは己とマシンだけなのだ。
ストーナー選手は2010年一杯でドゥカティから離れたわけだが、移籍の理由はドゥカティが…いや、正確にはメインスポンサーであるマルボロが、所属選手らにサーキット内でいわゆる『広報活動』を積極的にするよう求めていたからだ。
「あれは辛かったですねぇ。僕の求めている生き方とは正反対のことですから。」
もちろん、移籍の理由はそれだけではない。
「移籍したのはマシンのせいでもないし、ヴァレンティーノがドゥカティに何か言ったからでもないです。僕が移籍を決めた時には、まだ彼とは交渉中でしたしね。問題はロレンソ選手の件です。2009年のことなんですが、これが僕には不愉快でしたね。ドゥカティは充分な資金がないってずっと愚痴り続けていたくせに、ホルヘに対し僕の倍額出すからってオファーをしてたんですよ。
ドゥカティって言うのは2面性があって、僕が一緒に働いてきたスタッフ達…例えば、エンジニアのプレツィオージ氏とかチームスタッフの皆とかは完璧なんですよ。でも、幹部連中って言うのが、言ってることと、やってることが違っていてね。
僕としては金が全てではないです。ただ、ここははっきり言っておきたいんですが、他の選手の(編集部注:ロッシ、ロレンソ、ペドロサ)足下にも及んでなかったし、ある時点で、僕はもう充分でしたから。今は、以前よりは釣り合いのとれた状況ですけどね。」
また、ホンダはどこのメーカーよりも研究・開発に投資できる企業であると言うことも分かっている。
「ドゥカティでは新プロジェクト開発の予算がありませんでしたから。」
そして、移籍のもう1つの理由は何年も前に遡る。
ストーナー選手は5才の頃からホンダNSR500を駆るミック・ドゥーハンを見続け、この同郷選手を…おそらくオートバイレース史上最もタフなこのライダーのことを心から尊敬して育ってきたのだ。
「いつもレプソル・ホンダチームに入って、ミックの後を追うことを夢見てきたんです。」
ストーナー選手はドゥーハンらが活躍した時代のライダー達に憧れている。
「あの時代はレースしかなかったでしょ。今みたいに、ごてごてした余計な飾りなんかはなかった。あれこそ、人生ってやつですよ!」
ドゥーハン時代のライダー達は情け容赦なく、トラクションコントロールなんぞも使わず競ってきたのだ。ストーナー選手はできるなら、それは禁止してしまいたいと言う。
「トラクションコントロールなしでレースができれば良いのにね。僕が総合優勝した時、みんな僕のことをトラクションコントロールに頼った新世代ライダーだとしか言わなかったんですよ。やっとある段階になって、他の選手に比べたら僕の方があまりそれを使ってないってことが分かってもらえてね!もしもトラクションコントロールなんかなかったら、マシンをもっと直に感じられるのに。」
昨年11月、ホンダRC212V機を走らせるやいなや、ストーナー選手は周囲の目を釘付けにしているのだが、それについてストーナー選手は笑顔でこう説明してくれた。
「ホンダのマシンはカーブではこうも良く曲がるし、ドゥカティに比べこれほどにも優れている。今、僕が走ってるラインは以前とはまったく別物ですよ。
デスモセディチ機が優れている箇所も2つ程あるんですけど、ホンダの方が絶対的に上をいってる箇所がどっさりあります。
ホンダはしばらく前からチャンピオンタイトルを取っていないし、こう言う状況を快く思っていません。ちょっと僕も同じかな。しばらく前から総合優勝してないってことでは、僕も満足してませんから。ホンダのためにも、僕のためにも、この足りない物を埋められるんじゃないかと、僕はこの闘いに飛び込んだんです。確かな物が一つあるなら、良い戦いになるでしょうからね。」
[ 完 ]
(日本語翻訳:La Chirico / 伊語記事:Motosprint 2011年05月24日)
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移籍後、内輪で色々と
ドゥカティを批判していると言う噂がありましたが…
あぁ、遂に言っちゃったのねぇ。
奥さんのアドリアーナは、
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